使ったプチプチが、新たなプチプチに生まれ変わる?!
2025.12

使い捨てられる梱包材から「地域の資源」へ
宅配便や引っ越しで誰もが一度は手にしたことのある気泡緩衝材「プチプチ®」。
その多くは、役目を終えると可燃ごみとして処理されがちなのが現状です。しかし神戸市では今、全国に先駆けて使い終わったプチプチを地域ぐるみで分別・回収して、再び新たなプチプチに生まれ変わらせる“水平リサイクル”の取り組みが進んでいます。
このリサイクルの仕組みを推進しているのが、気泡緩衝材製造の主要メーカー・川上産業株式会社です。
同社は「まもるを、つくる。」という企業理念のもと、自社製品の製造における再生原料の活用にとどまらず、行政や企業、市民と連携し、社会全体でプラスチック資源を循環させる仕組みづくりに挑んでいます。
「ポリエチレン」ではなく「プチプチ」が官民協働の決め手
川上産業では、主力製品である「プチプチ」が開梱後すぐに廃棄されてしまうことを課題として捉えてきました。
同社は2004年から製造現場での再生原料使用を進めながら、プラスチック資源を再生・循環させる仕組み「ループリサイクル®」の確立を目指していくなかで、「一般家庭からの資源回収をどう実現するか」が次なる目標となっていました。それまで同社が回収できていたのは企業など事業系の使用済み資材が中心で、家庭で使われたプチプチを回収するには別の仕組みが必要でした。そこで2021年秋、同社の担当者が神戸市を訪問し、市民からの回収可能性について相談したことが大きな転機となりました。当時、神戸市では資源回収ステーション「エコノバ」を11月から稼働させる準備を進めており、ちょうど両者の構想とタイミングが重なりました。同社はこの新しい取り組みに参画することを申し出て、協働がスタートしました。
エコノバではプラスチック資源を「集める」だけでなく「循環させる」ことを重視する方針がありました。プチプチは単一素材(ポリエチレン)でできているために分別がしやすく、さらに“プチプチ”という商品名自体が広く親しまれているため、市民にとっても理解しやすい対象でした。「ポリエチレンを持ってきてください」ではなく「プチプチを持ってきてください」と伝えられることで、生活に近い言葉でリサイクル参加を促せる点も、市民参加型の取り組みとして大きな強みとなりました。
家庭での“ひと手間”で、プチプチ再資源化率8割超へ
そうして2022年度から資源循環ステーション「エコノバ」を中心に市民による使用済みプチプチの回収がスタートしました。この取り組みは、神戸市の「まわり続けるリサイクル」プロジェクトの一環として位置づけられています。
当初、プチプチの回収は限られた拠点から始まりましたが、現在では市内40か所以上のエコノバに専用の回収ボックスが設置されています。こうして市民が日常生活の延長で気軽に参加できる環境が整い、プラスチックリサイクルの裾野が広がりつつあります。
エコノバでは「指でプチプチと簡単に潰せるものか確認する」「紙やテープを外す」「潰してなるべく小さくする」といった出し方を明示し、市民が正しく分別できるよう工夫されています。こうした積み重ねにより、異物混入の少ない回収が実現し、回収されたプチプチの8割以上が再資源化可能な状態で工場へ送られています。
- エコノバノエスタに設置された回収ボックス
- 神戸市から回収されていたプチプチは1カ所に集められて県内のリサイクラーに引き渡される
- リサイクルされた原料が運ばれる先は稲美町にある川上産業(株)兵庫工場
教育現場と家庭をつなぐ、「潰して学ぶ」体験授業
また、同社は学校でプチプチを使った出前授業も先行的に実施しています。
授業では、潰していないプチプチと潰したプチプチの違いを手で触りながら確かめ、どちらが再資源化しやすいかや分別の重要性を実物に触れながら学びます。
「潰すことで空気が抜けて運びやすくなるんだよ」「資源としてまたプチプチに生まれ変わるんだよ」。そうした説明に子どもたちは驚いた表情を見せ、帰宅後には「これは資源なんだよ」と親に話し、そこから家庭でもプチプチをためて回収に出すようになったといいます。こうして子どもから家庭へと意識が浸透し、次の世代の環境を守る行動へとつながっていくことが期待されています。
プチプチが再びプチプチになるまで
神戸市内のエコノバで回収されたプチプチは、市内で集約された後、県内の連携リサイクラー(再資源化事業者)に運ばれます。そこで異物除去や洗浄、圧縮・造粒などの工程を経て再生ペレット化され、再び川上産業の兵庫工場へ。工場では溶融・押出成形によってシート状に加工され、新しいプチプチ製品として再び生まれ変わります。
このポリエチレンの再生プロセス「ループリサイクル®」は、行政・企業・市民が協力して資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)モデルとして注目されています。回収から再生、製品化までの主要工程が県内で連携して完結しており、輸送に伴うCO₂排出の削減にも寄与しています。

再生技術の核「物性コントロール技術」
プラスチックのリサイクルでは、原料によって粘度や強度、流動性が異なり、そのままでは製品品質を安定させることが難しいとされています。しかし同社は20年以上にわたり、再生原料を高品質な製品づくり使えるようにする「物性コントロール技術」を磨いてきました。この技術は、複数の再生ポリエチレンをブレンドして粘度を調整し、プチプチに最適な“ストライクゾーン”の物性を実現するものです。この独自技術により、現在では同社のプチプチ製品の再生原料使用率が9割超に達し、再生原料使用でも外観や耐久性などの品質はバージン材(石油から製造した素材)使用と遜色ない水準を維持しています。
企業とともに資源循環を進める「共業」モデル
市民からの回収に加えて、同社は企業との連携による事業系プラスチックの再資源化にも力を入れています。
回収対象は自社製品のプチプチやプラパールに限らず、企業活動で発生するポリ袋・ストレッチフィルム等のポリエチレン系包材。分別・量・品質条件を満たす場合に回収・資源化という選択肢が広がります。連携企業が取り組んだプラスチック資源の回収量・再生量・CO₂削減量は定量データとして提示されるため、環境報告・ESG対応の裏付けに活用することができます。この「CO₂削減効果の可視化」という支援は、同社が製品ごとに再生原料比率と排出量を管理する、CO₂排出量「見える化」システムを整備しているからこそ実現できるものです。
連携企業に対しては、以下に関する相談窓口や支援を提供しています。
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回収量・再生量・CO₂削減効果の数値化・可視化
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廃棄コスト削減による経済的メリット
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環境報告書・ESG・SDGs対応のための実績データ化
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地域資源循環への参加による社会的評価の向上
同社は、長年蓄積してきたリサイクルの知見や仕組みを基盤に、提携企業が主体的に資源循環に取り組める「共業」の枠組みを整えました。これにより、「地域単位で資源を循環させる経済(サーキュラーエコノミー)」の推進に弾みがついています。
地域に根づく新たなリサイクルのかたち
使い終わったプチプチ®を、資源として分けて出す。
学校で学んだ子どもたちが、家庭にその知識を伝える。
企業が包装材の回収や再生に取り組み、行政が資源循環の仕組みを支える。
それぞれの立場での取り組みが重なり、プチプチのリサイクルは地域の中に少しずつ根づいてきました。
使い終わったプチプチを、もう一度プチプチに。
市民、企業、行政——
それぞれの関わりがつながることで、プラスチックを「使い捨て」ではなく「活かし続ける」流れが、神戸のまちの中で確かに育まれています。
編集後記
今回の取材で、資源回収ステーション「エコノバ」に掲示されたリサイクルのガイドを改めて読み返しました。回収ボックスには「テープ等をなるべくを外してください」「潰してできるだけ小さくしてください」「プチプチ®以外の緩衝材は投入できません」と書かれています 。それを見るまで私は、プチプチがリサイクルできることは仕事柄知ってはいても、リサイクルに適した緩衝材かどうかや、これらの“ひと手間”の重要性をそこまで意識したことがありませんでした。
プラスチック資源循環は、単に「プチプチを集めたから」ではなく、こうして家庭できちんと異物が取り除かれた「きれいな資源」が集まっているからこそ実現できるのだと、取材を通して実感しました。
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