まわり続けるリサイクル

分けたペットボトルキャップが日用品になる

エコノバから始まる、神戸発プラスチック資源循環プロジェクト

2026.03

ペットボトルを飲み終えたあと、キャップを外して分ける。

最寄りのエコノバ(資源回収ステーション)へ持ち込む。

神戸市では、市民のそのひと手間がプラスチック資源の循環へと着実につながっています。

 

資源循環パートナーシップのJ-CEPが神戸市と連携して、市内の資源回収ステーション「エコノバ」で集まったペットボトルキャップ(以下、「キャップ」という)を再生材原料として製品へ利用する可能性を検討する実証プロジェクトを推進しています。

この取り組みの第1回目(2022年10月13日〜2023年12月13日)では、回収キャップ由来の再生プラスチックを用いたツメキリを制作。2回目(2023年12月3日〜2024年10月)ではハサミが制作されました。市民が分別したキャップを安定した再生素材としてどこまで製品に活かせるのか、リサイクルの現場を取材しました。

「気持ち」も循環させる枠組み

この実証に取り組んでいるのが「J-CEP(Japan Circular Economy Partnership)」です。「循環」「共生」を体現する持続可能なビジネスモデルの構築を目指す一般社団法人エコシステム社会機構(ESA)のもと、持続可能な社会の実現を目指す企業と住民・行政・大学等が連携してサーキュラーエコノミーを推進する事業共創の枠組みです。この事務局を担うアミタホールディングス株式会社の担当者は「サーキュラーエコノミーを実現するには、多様なプレイヤーが連携する必要があります」と語ります。

J-CEPが掲げるのは「モノ、情報、気持ち、そのすべてが循環する社会」。なかでも重視されているのが「気持ちの循環」です。市民がエコノバに持ち込んだキャップを企業が受け取り、再生素材として検証する——生活者の行動と企業の技術がつながるこの構造が、今回の取り組みの出発点です。

キャップは、同じに見えて同じではない

回収されたキャップは、一見するとどれも同じに見えます。しかし実際には、主にポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の2種類が混在しています。今回の実証では、既存製品の素材に合わせてPPとPEに選別しました。PPはツメキリとペンキのローラーハンドルに、PEはプチプチやブルーシートの試作素材として、J-CEP参画各社での検証に活用されています。

この選別工程を担ったのが三井化学株式会社です。光学選別によってPPとPEを分け、さらに白色とそれ以外の色を分離します。お茶や炭酸飲料、スポーツドリンクなど、キャップの色は多様であり、色の違いも再生工程の重要な条件になります。

選別後にペレット化された再生材は物性評価も行われました。既存製品に使われているバージン材(PP)と比べて強度はあるものの、成形条件の見極めが必要であることが確認されています。見た目は同じでも、素材として扱うには細かな違いを丁寧に見極める工程が欠かせません。

素材としての可能性を探るペレット化

選別を終えたキャップは、洗浄・粉砕されたのち、溶融・押出し工程を経て粒状の原料へと加工されます。この粒は「ペレット」と呼ばれ、プラスチック製品を成形する際の基礎材料になります。

ペレット化を担ったのは日本山村硝子株式会社です。地域の拠点で分別されたキャップは、そのままでは製品に使える状態ではありません。素材として再び扱うためには、不純物の除去や色のばらつきを抑えながら、均質な原料へと整える工程が必要です。回収品ゆえに品質が一定でないキャップを安定した再生材として仕上げること——それがこの工程の核心です。こうして、ばらばらだったキャップは「再生ポリプロピレン」へと姿を変えます。

分別という生活者の行動は、この工程を経て、ようやく「素材」としての検証の入り口に立ちます。

なぜツメキリとハサミか——量産ラインで確かめる実証

再生材の物性が確認されたあと、次に問われたのは「実際の量産工程で扱えるのか」という点でした。

この検証に取り組んだのが総合刃物メーカーの貝印株式会社です。担当者は参画の意図についてこう振り返ります。「自社だけで材料を調達して製品をつくるだけでは、再生プラスチックの価値は見えません。どこから回収され、どのように分別され、どのようにペレット化されるのか。その現場を見てプロセスを理解することで、問題がどこにあるのかが分かるようになりました」

「どこのコンビニにもある」製品のツメキリから

最初の検証対象に選ばれたのは、ツメキリの部品(ストッパー)です。

対象となったツメキリは全国のコンビニエンスストアでも販売されている身近な製品で、近年は訪日外国人客による購入増加もあり、ツメキリの生産数はこの5年間で約1.5倍に伸びています。実は30年ほど前からインバウンド需要が存在し、コンパクトで持ち帰りやすく、手頃な単価で日本製と海外製で品質差が体感しやすい製品として、海外旅行者がまとめ買いする傾向があったといいます。流通量の多い製品を切り替えられれば影響は大きい。量産され、広く流通している製品で再生材が使えるかどうかを確かめることが最初の目的でした。

材料が変わると強度も変わる。「モノで見せる」設計検証

続いて挑戦したのがハサミの柄です。背景には欧州市場の動向があります。欧州では再生プラスチックの使用を前提とした規制整備が進み、将来的に再生材を組み込んだ製品であることが求められる可能性があります。同社の欧州主力製品は包丁とハサミ。包丁は食品に触れるため再生材導入が難しく、まずはハサミで試作が行われました。

一般的なハサミの柄に使われるABS樹脂と異なり、キャップ由来の再生材はポリプロピレン(PP)。このPPはABS樹脂より比較的柔軟性があるため、再生材の利用にあたっては力のかかる位置や肉厚、金属ブレードの入り方を量産用に設計し直す必要があることがわかりました。「モノで見せるのが一番分かりやすい」——この言葉通り、社内で「本当にできるのか」と問われたときに示せる材料をつくることも大事でした。SDGs教育を受けてきた若手世代と、品質・コストをシビアに見るベテラン世代。その「意識の差」を埋めるためにも、キャップから製品が生まれることを実物で示す必要があり、そのための技術検証でもありました。

 

量産に向けた課題を解決

試作では、プラスチック再生材の配合率を10%・30%・50%・100%と段階的に変えながら検証が行われました。試作段階では100%再生材でも良好な結果が得られた一方、量産ラインで安定供給するためには現実的ではないと判断されました。その結果、成形性と強度から、ツメキリでは30%配合、ハサミでは50%配合が試作品に採用されました。

検証過程では、異物混入も課題として浮かび上がりました。光学選別を行っても、色違いの樹脂が混ざることや、キャップに印刷が施されているケース、裏側に別素材が使われているケースがあります。1回目の試作で黒い点が確認されたため、2回目ではフィルターを増設し、見た目の品質が改善されました。検証を重ねるたびに、量産に向けた課題を解決しています。

社内調整という「見えない壁」

技術検証と並行して課題となったのが、社内の理解を得ることでした。

同社のツメキリは、インバウンド需要もあり生産が追いつかないほど売れている主力製品。その量産ラインで試作を行う以上、「欠品につながるのではないか」という懸念は避けられません。

量産ラインでの試作はやり直しがきかないことから、配合率を複数パターン事前に準備し、一度で試作を成立させる体制が整えられました。サステナブル担当も加わり、量産現場と調整を重ねながら、社内の理解を広げていきました。

エコノバから生まれる「気持ちの循環」

エコノバには、検証1回目に336kg、2回目には836kgのキャップが集まりました。再生材を100%使用した場合の目安では、キャップ約2個分でツメキリの部品1個、約5個分でハサミの部品(柄)1個に相当します。この換算が示されると、分別という行動の意味は一気に現実味を帯びます。何気なく外したキャップが、どこかで製品の一部になる。その距離が、数字によって初めて見えてきます。

エコノバは単なる回収拠点ではありません。利用者へのアンケートでは「エコノバに通うようになってから購買行動が変わった」「環境に良いものを選ぼうと思うようになった」という声が寄せられ、実際に分別を教え合う光景や、出しに来た後に会話が生まれる姿も見られます。エコノバで資源を出すという行為が、意識と行動の両方を変えています。

展示会での反響——「分かりやすさ」という価値

リサイクルによって生まれたツメキリは、展示会やイベントでも紹介されました。家電由来の再生材と違い、ペットボトルのキャップは誰もが手にしたことのある身近な存在です。

実際のキャップを手に取りながら「このキャップ2個で、ツメキリのストッパー1つになります」と説明すると、来場者はすぐに想像できます。子どもたちからは「ちゃんと分けたら、ちゃんと戻ってくるんだね」という声もあがりました。製品として目の前にあることで、分別とリサイクルのつながりがはっきりと伝わります。

このプロジェクトで生まれたツメキリはヴィッセル神戸を通じて神戸市内の小学校と養護学校計169校へ贈呈されました。市民や子どもたちがロゴ入りのツメキリを日常的に使うことで、資源循環を思い出すきっかけになります。

分別状態と製品品質のつながり

一方で、回収段階での混入という現実も見えてきました。善意から対象外の製品が持ち込まれることも少なくありません。たとえば調味料容器のキャップや、内側にアルミが使われている飲料用の特殊なキャップなどです。こうした混入は、設備や品質に影響を及ぼします。中には、きれいに洗って重ねられた状態で持ち込まれるケースもあります。それは悪意ではなく、「リサイクルしてほしい」という思いから生まれた行動です。分別ルールの周知は、J-CEPが向き合うもう一つの課題でもあります。

大規模に効率よく集めるだけでは不十分です。分別が雑であれば、せっかく回収した資源も再生材としては使えず、焼却に回るものが増えます。だからこそ、発生源での丁寧な分別が資源循環の前提になります。ただし、J-CEPが目指すのは資源循環だけではありません。資源循環は手段であり、目標は社会の変容です。その駆動力となるのが循環経済であり、エコノバでの分別はその一歩です。

社会を変えるには、市民一人ひとりが自らのライフスタイルを見直し、資源循環に主体的に参加する意識が重要です。エコノバは資源回収の場であると同時に、「どう分けるか」を学び、その意識を育てる場所でもある。分別という日常の行動が、社会変容の駆動力になっていきます。

神戸から広がる新たな資源循環のかたち

今回の検証は、ツメキリとハサミの試作で一区切りを迎えました。どの製品に、どの程度まで再生材を使えるのか。量産ラインの中で何が課題となり、どこに可能性があるのか。リサイクルの工程ごとに得られた知見は、次の検証へと引き継がれていきます。

起点にあるのは、エコノバにペットボトルキャップを持ち寄るという市民の行動です。

分けたキャップが素材になり、製品になり、また日常に届く。

神戸では、その循環がすでに始まっています。


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