神戸発!エコノバで“使い捨てカイロ”を“鉄の資源”へ
2025.12

冬の外出時や、冷えが気になるときに頼りになる“使い捨てカイロ”。 便利な一方で、「中身は何でできている?」「捨てるしかない?」といった疑問や、使い終わった後の扱いに迷う感じを経験した人も多いのではないでしょうか。
そんな利用者の思いに応え、2025年2月〜5月に神戸市内の資源回収ステーション「エコノバ」で、使用済みの使い捨てカイロを回収し、含まれている鉄粉を鉄鋼材料としてリサイクルする実証実験「めぐるカイロプロジェクト」第1期が実施されました。
実証実験第1期はカイロの回収量1トンを目標としていたところ、当初の予想を大きく上回る約3.3トンが集まるという結果となりました。このプロジェクトは、市民の分別行動、行政の回収拠点、メーカーの技術と情熱が組み合わさることで実現した、神戸市ならではの官民連携による新たな実証的取り組みです。
同年12月から始まる第2期では、回収期間を通年に広げ、市内50カ所以上のエコノバでの回収がスタートしました。このプロジェクトに神戸市と共に取り組む小林製薬株式会社(以下、同社)の担当者に、第1期の振り返りと第2期に込めた思いを聞きました。
使い終わったカイロの“行き先”をつくる
日本カイロ工業会(東京都)によると、2024年度のメーカー13社による国内外での使い捨てカイロ販売数は約17億7,652万枚と発表されています。使用済みのものは廃棄物として扱われますが、自治体によって捨て方は異なります。神戸市では、使い捨てカイロは“燃えないごみ”として扱われています。
カイロを製造・販売するメーカーの1社である小林製薬グループでは、「あったらいいな をカタチにする」をスローガンに掲げ、Reduce(減らす)・Reuse(再利用)・Recycle(再資源化)・Renewable(再生可能) の4つの視点で環境対応を進めています。その中で、長年つくり続けてきた使い捨てカイロについて、社内には以前から共通の課題感があったといいます。
「便利な製品だからこそ、使い終わった後が気になる」「資源になる素材なのに、そのままごみになるのは惜しい」。そうした課題を解決するために、「めぐるカイロプロジェクト」は生まれました。
カイロの中身の50%以上は鉄粉(純鉄)で、鉄は繰り返し再利用できる貴重な資源でありながら、ごみとして処理されているのが現状です。 このギャップを埋めるべく、「メーカーとしてできる新しい資源循環の仕組み」が検討されました。その一環で、市民・企業・行政が連携し、資源循環に積極的に取り組んでいる、市内に多数展開する「エコノバ」が市民参加のインフラとして機能しているという理由でパートナーに選ばれたのが神戸市でした。同社の担当者は「実証する場所として、これほど恵まれた環境はほかになかった」と振り返ります。
回収量3.3トンが示した、神戸市民の参加と反響
めぐるカイロプロジェクト第1期の回収期間は、2025年2月上旬〜5月末までの約4か月間。市内36か所のエコノバに専用ボックスが設置されました。結果は約3.3トン。その量はカゴテナー7台分にも及び、関係者の予想を大きく超えるものでした。
また、この実証実験ではエコノバのスタッフを含む400人以上から利用者アンケートが集まりました。「前から捨て方に困っていたので、出せてすっきりした」 、「来年も続けてほしい」 、「資源として扱ってもらえるなら、わざわざ持って行く意味を感じる」など、ネガティブな意見はほとんどなく、継続を望む声が非常に多かったことが特徴的でした。
さらに、「肩こりや腰痛対策で通年使っている」「季節を問わず体を温めるのに使用している」といった回答も見られ、“カイロの利用実態が冬季限定ではない”ことも明らかになりました。こうした利用実態を踏まえ、第2期では回収期間が通年に拡大されることになりました。

第1期の実証で市内から集められた使い捨てカイロ(約3.3トン)
カイロが鉄資源に戻るまで
使い捨てカイロには、鉄粉・活性炭・バーミキュライトなどが含まれています。役目を終えた後も、鉄という素材は価値を失っていません。このプロジェクトでは、中身に使われている鉄粉を“鉄鋼原料”としてリサイクルするルートを採用しています 。
【使い捨てカイロに含まれる鉄粉リサイクルの流れ】

① 回収:市内のエコノバで回収
② 分別:人の手で電池などの危険物や異物を除去
③ 還元処理・ペレット化:酸化鉄を鉄に還元処理し、炉の中で空気が通りやすい粒状(ペレット化)などに加工
④ 製鉄化:鉄鋼メーカーの高炉で溶かし、新たな鉄鋼原料として再生

回収ボックスに混入していた鉄製品の一部
この中で特に重要なのが「分別」です。同工程には相応の手間と費用がかかり、現場では安全確保のために一つひとつ目視で確認しながら異物が取り除かれています。第1期では、重量比で1%未満ながら、選別作業を行うスタッフの手を傷つける恐れがある電池やカミソリの刃といった危険物の混入、「鉄なら入れていい」という誤解から回収できない金属片が投入されるケースもあったといいます。
担当者は「鉄に戻すだけでも、実は多くの工程とコストがかかります。それでも、大量に使われるカイロを安定したルートで循環させるには、既存技術を生かして鉄鋼原料に戻す方法が、実装する上で最も持続可能で適していると判断しました」と語ります。これらの工程を経て、私たちが使い終えたカイロは、様々な鉄鋼製品として生まれ変わり、社会に戻っていきます。
「いつでも出せる」を目指して、50カ所以上で通年回収
第1期の実証結果と現場の声を踏まえ、第2期(2025年12月〜2026年11月予定)では、プロジェクトが大きく進化します。「『寒い時期に限らず、カイロを“資源として引き渡す場所”が一年中ある』そんな資源循環のしくみをつくりたいと考えました」(同社担当者)
① 回収期間:冬だけでなく、1年間ずっと
アンケートで見えた「年中使っている」「家に溜まっている分をまとめて出したい」というニーズに応え、第2期は12月から翌年11月までの通年回収を行います。
② 回収拠点:36カ所 → 50カ所以上に拡大
カイロの回収拠点を36カ所から50カ所以上に拡大して第2期をスタート。「エコノバを運営する地域の皆さんから、『回収に協力できる』という声を多くいただきました。資源循環につながる場所が増えることは私たちとしても、とても嬉しく、前向きに拡大を決めました」(同社担当者)。
回収拠点は今後もエコノバの新設等に伴い増える予定です。
③ 使い捨てカイロ回収ボックス:表示と扱いやすさを改善
第1期での気づきを元に、回収ボックスも改良されました。
• 異物混入対策:
「回収できるもの/回収できないもの」をイラスト付きで明示。
充電式カイロや電気カイロ、金属類、外袋(ビニール)などは回収できないことが分かるよう改善されました。
• 現場への配慮:
幅広い年代の方や、性別を問わず誰でもが回収袋の交換などの作業をしやすいサイズ・形状に見直されました。
資源を“めぐらせる”仲間として
「めぐるカイロプロジェクト」は、神戸市・企業・市民が力を合わせ、鉄という資源に新しい循環の道をつくる取り組みです。同社の担当者は、最後にこう語りました。
「カイロには鉄がたっぷり含まれており、何度でも生まれ変わるサステナブルな素材です。リサイクルの道があるからこそ、必要な場面では安心して使っていただきたいと思って取り組んでいます。
使い終わったカイロを“ごみ”ではなく“鉄の資源”として回す――この取り組みを神戸での成功をモデルに、日本全国、ゆくゆくは世界へ広げるのが私たちの夢です。
その“第一歩”を一緒に踏み出してくださっている神戸市民の皆さんは、私たちにとって特別な存在です。
ご自宅でたくさん集めて重たくなったカイロを持ってきてくださる市民の皆さん、回収ボックスを管理してくださるエコノバのスタッフさん、仕組みを支える神戸市の職員さん——それぞれの立場は違っても、一緒に資源循環を担う仲間だと感じています。市民の皆さんにはこれからも、資源をめぐらせる仲間としてぜひ積極的に参加していただければ幸いです」
市民、エコノバのスタッフ、行政、企業。 立場は違っても、目指す方向は同じ——
限りある資源を無駄ににせず、次の価値につなげていく。
その一つひとつの行動が、神戸から始まる新しい資源循環の流れをつくっていきます。
編集後記
「鉄に戻すには多くの工程が必要ですが、それだけの価値があります」。インタビュー中の熱意ある言葉が印象的でした。私たちがボックスに入れたカイロは、そのまま溶かされてすぐに鉄になるわけではなく、私たちの正しい分別や企業の地道な努力によって資源へと生まれ変わるのだと取材を通して知りました。
これからの季節、お世話になることも多い使い捨てカイロ。回収対象の使い捨てカイロであれば、メーカー不問とのことですので、ぜひ使い終わったら“ごみ”ではなく“資源”としてお近くのエコノバへ持って行ってみませんか?










